ベトナム、ホーチミン高齢化フオーラムに参加して

ベトナム、ホーチミン高齢化フオーラムに参加して

 

さる8月14日、ベトナム、ホーチミンにて、日本政府、ベトナム社会主義共和国政府、人口と開発に関する議員フォーラム(AFPPD)、東アジア・アセアン経済開発センター(ERIA)ヘルプ・エイジ・インターナショナル、日本国際交流センター(JCIE)日本貿易振興機構
主催の「持続可能な成長のための健康長寿社会への投資ー高齢者ケアのための地域的アプローチ」と題するフォーラムに参加してきました、その報告と若干の感想など記してみます。

参加者は、ベトナム、日本、インドネシア、中国、タイ、シンガポール、マレーシア、スリランカ、フィリピン、アフガニスタン、バングラディシュ、ブータン、カンボジア、香港、カザフスタン、韓国、モンゴル、ネパール、ニュージーランド、パキスタン、タジキスタン
などの各国国会議員、政府関係者、などを中心に研究者、医療関係など役200人以上が集まりました。
また日本政府内閣府が肝いりで組織化しつつある、「アジア健康構想の官民推進のためのプラットホーム」のメンバーが30人ほど聴講する会議でありました。
当日は、主催者の挨拶に続き実質的提案者である武見敬三国会議員による提案説明と情勢解説にてこの会議の趣旨の全体説明がなされた。
それによると、日本のみならず、アジア諸国は近々高齢社会を迎える、それに向けた準備がすべての諸国の喫緊の課題である、このフォーラムはその情勢の共有認識とそれに対する課題に対する議論の場であるとの会の趣旨が発表された。
 
本会議の議題は4セクションで構成。
1. 活力ある高齢社会に向けたアジアの道筋の発見
2. 長期ケアのためのコミニティーシステムの本質的役割
3. 介護労働者の能力開発と国境間移動についての地域的アプローチ
4. 地域及び他分野連携に関する政策協議と意思決定の道筋。

この問題は当然現在日本の介護現場が遭遇している問題であり、このことが近い将来全体の課題になることは自明である、したがって議題のリードは日本がなすのは責任あることとして、当然のように、会の進行は日本の役割である。

会議から見えてきたもの「介護のニュアンスが各国、各参加者により違っていた」

会の進行の細目はほかの報告に譲るとして、今ここで報告するのは会の中で何が問題であったのか俯瞰することとして課題の洗い出しなどしてみたい。
参加各国の共通のテーブルに上がっていたのは「アジア健康構想」である、それは日本が他の諸国よりいち早く高齢社会を迎え、それに対しての政策等を整備実行して、今やその必要は特に介護労働者を中心にして日本以外の国、特にアジア諸国の力を必要としているところまで来ていて、かつその導入は日本の介護の先進性の輸出と位置付けようとしている、そこに今我々が語る介護の性格が見え隠れし、介護のグローバリゼーションの困難性と、それを乗り越えるところに普遍性のありかがあるような気がする。なぜなら介護の基礎は「生活」であるからです。
それが起因してか、例えば「介護」との言葉も各国、各地方の事情により違うのは当然のことであるが、あえてか、そのことに触れることなく、「介護」との言葉ありきであった。
だがしかし会議事態は介護問題は他のアジア諸国の明日の課題なのであることの共通認識から出発していた。
一日を通して見えてきた課題は
例えば日本が必要としている介護労働者の問題にしても
GDP の違いを利用してその低い諸国を「送り出し国」として位置付け、我が国にそれを受け入れ、何とかその不足からくる社会問題の解決など考えているが、しかもその「送り出し国」も遠からずして介護人材の不足の到来が予定されている、したがってそのタイムラグを利用して、介護先進各国が培った介護ノウハウを母国に持ち帰ることができる、このようなサイクルの総称が「アジア健康構想」と語っている。
このサイクルを廻す。課題は何か?
これを検討するのが本セミナーであったようだ

家庭介護から社会介護の時代変化

 

介護は技術だけでなくではなくその社会がいま必要としている社会制度に裏打ちされる。
確かに日本もそうであったが、例えば高齢者の介護は日本であっても、つい数十年前まで家庭で処遇するのが自然であり、決して労働の範疇のことではなかった。
それが今や社会全体の行為であり、市民社会の重要な行為と位置付けられるに至った。
したがってたとえ日本の介護経験で習得した介護技術を母国にはそのまま持ち込むことはかなりの無理が生じる、それは、その前に母国にあった介護を支える社会制度の構築が必要となることなのである。、
例えば、現在介護実習生の受け入れの検討が日本政府はもとより、介護現場で検討実施されつつあるが、制度的には3年あるいは5年で実習生は母国に帰り、母国の介護に従事することとされているが、そのことの実施保障はない、ただあるのは日本側の都合からくる制度設計だけのようだ。

日本の介護は寄り添う介護から自立支援の介護に変化しつつある。

今わが国では、介護はその必要としている利用者の自立のための技術体系である、との考え方が主流となりつつある、例えばそのことは、そもそも、「介護保険」の考え方は利用者の自立を促すことを基本として、そのために社会全体の互助組織としてそれがある、などあらためて言はれ始めた。
それは。社会の成熟が高齢者のお世話を社会全体の課題としてしかとらえることしか、できないほど、ゆとりがなくなったともいえるのだが。
それはさておき、それは決して「介護は利用者のお手伝いさんなどではなく、主人公は介護を必要としている人なのである、」として介護の位置付けをあらためて声高に語られたりしているのが日本の現在なのである。
だがしかしいまだ、日本の介護現場の過半もそうであるが、かつアジア諸国のそれがそうであように、高齢者介護は寄り添いであり、介護を必要としている人の杖となったり、生活に必要な基礎作業の代理行為をすることが介護であるとの認識である、介護とはお手伝いさんなのであり、娘、嫁がする家庭の仕事それであり、したがって痒い所を掻いてあげるのが介護であり、寄り添うのがそれだあり、それはごく自然な家庭が生み出す自然な家族文化のそれである。
だがしかし、今日本がいわばそうであるように、今後高齢化社会が到来するアジア諸国は、家庭のそれから、第三者、あるいは職業としての介護に変化することが必要とされているのである。

課題

例えば介護を第三者と言っても、あるいは職業としての介護職にゆだねると語っても、それを担うのは、例えばヘルパーにあるいはメードにまたはケアギーバーに、介護福祉士になどさまざまである。
ここにそれぞれの国が抱える課題、また問題があり、そこには何もたとえ介護先進国である日本の姿を直接投影することには当然無理が生じるのである。
今回のフォーラムはこのことには触れることなく、参加者それぞれの介護に対するニャンスあるいはイメージを前提にしているようであった。
それは例えば日本で主流になりつつある「自立支援介護」それも水分、運動、排せつ、栄養などの基礎ファクターの提供そして自立、そして結果的の健康年齢の向上などというサイクルは日本だからこそ介護領域として表現されるが、それはある国では医療領域として位置づけられる可能性があるし、このように介護の領域はいまだ不確定のもとのフォーラムであった。

今後必ず直面するこのことは、今回のフォーラムには直接語られることはなかった、が議論の中で、例えば介護実習生の人権をどう担保するか、あるいは例えば日本での労働者としての待遇をどうするか、あるいは国際間の介護労働の社会的地位の向上をどうするか、あるいはその担保として国同士の協定をどう結ぶかなど、課題として挙げられたりはしていた。
だがしかし介護現場に嘱しその労働力不足の解決策として、アジア諸国の介護技能実習生の導入を計画している我々は、その議論に何となく「物足りなさ」を覚えたのである。
これはそのようなことが起因しているのかもしれない。
そのことをさらに言えば、
我々が語る介護と、セミナーで語られ、かつ参加諸国がそれぞれに語る介護の概念がそれぞれにイメージが違うのであろう。ただ、今のところ違っても当然であるが。
ある国の介護は、メードさんの仕事であり、またある国のそれは医療現場の介護スタッフ、あるいは助手のそれであり、またある国のそれはリハビリのフジィシャンの作業もどきの領域まで含まれたそれであり、それぞれに国が持つ要件によりばらばらのイメージで語られているのであった。
その整理なしに。
フォーラムにあっては語られている介護は、過半の発言者がそうであるように、ヘルパーあるいはメードさんの業務を介護として語られているのが最大公約数であり、その親切さ、あるいは丁寧さが良い介護の基準と語られているようであった。

一方日本の内閣府のレクチャーによれば、日本の今後の介護は自立支援に徹しており、介護により介護度が下がり、結果的に健康寿命を延ばす技術、あるいはその世界まで含む概念として介護が語られたりしている、
またそのことはある国では医療のなかでかたられたりしているのである。
このように今回のフォーラムにあっては参加各国にあってはそれぞれに介護がイメージされ、それを前提にしての各国の現状報告であったようだ。

その結果、アジア諸国で断トツのスピードで進行した日本の高齢化社会は結果的に介護先進国として、アジアの指導的立場を主張するに至ったのである。
だがしかし介護は時代変化とその国の文化の結果として、地域性が生み出す文化である以上、たとえ先進国のその技術を母体にして、それをもとにしてローカライズする文化である。
そうである以上日本的介護の輸出は輸入国にとってはあくまできっかけであり、それを地域にとって有用性にアレンジするのが介護の特性と言えるのである。
今回のセミナーはこのことに気が付くきっかけを私に知らしめてくれた。
私はセミナーに参加しながら日本に介護保険を導入する以前2,3年前そのイメージなどを探す旅として、スエーデンなどの北欧諸国あるいはドイツなどの介護を社会的作業として位置づけられている諸国に競って視察に行った時代を思い起こしたのであった、
その結果日本の介護は介護保険の制度化することにより、独自の発展を遂げたのである。
そのことを考えると、このようなフォーラムが社会的介護を必要とするであろう諸国にとって、それぞれに時代、国にあったそれを施行するきっかけとなることと思うしだいでした。

ホーチミンにおける「さくら介護研修センター」の実践

ベトナム175病院、日本式介護研修センター開設について。
ホーチミンで我々がフォーラムに参加して、日本式介護の伝習手段として、「アジア健康構想」につき議論を重ねているころ、ちょうど時を同じにして、ホーチミン市内の最大の病院である国防省175病院(敷地面積21ヘクタールベット数1000床、200床増床建設中)の敷地内で日本の介護施設会社の株式会社社会福祉総合研究所(代表取締社長北原弘美)が数日後の8月19日に予定さあれている日本的介護研修センターの竣工式の準備で大わらわであった。それは準備に数年かけ、一般的な日本の介護施設の海外進出にありがちな単に日本のマンパワー不足の対策としての、あるいは日本に介護実習生として連れていくための、日本語教育、介護教育機関としてのそれとは違い、いわばベトナム式介護を形作ることを目的とした介護研修施設の開設である。
彼らがベトナム国防軍175病院と交わした覚書によると、
① 日本式介護研修センターを175病院の敷地内に開設して介護人材育成事業に協力する。
② 175病院をはじめ複数の高齢者住宅を設立し運営の協力をすること。
とされている
この覚書に基づいての研修センター竣工式が8月19日なのである。
この覚書に秘められた両社の強い思いは、このようなプロジェクトにありがちな先進国の一方通行を避ける手段として、「日本側はノウハウは出すが金は出さない。」
との盟約で結ばれていることである。
竣工式には当然175病院長、ベトナム政府保健所、日本政府ホーチミン領事など参集する。

今私はこの事業を遂行するための基礎的考え方こそあのアジア健康構想のフォーラムで感じた「ものたりなさ」を解消する解決手段だと思う。
事業推進の日本側の当事者である、株式会社社会福祉総合研究所の北原社長の言によると、日本側はあくまで協力者であり主人公は当然ベトナムの人たちである、したがって介護先進国の日本側は介護とは何か、あるいは介護技術など指導するが、その対象はベトナムのスタッフの中での指導者層に伝習することを最優先にしたい、そして彼らを通してベトナムに定着させたい。
まさにそうなのである、その考え方こそ、日本が介護先進国であることの責任を果たすことの方法ではないかと思います。
現在「アジア健康構想」として企画実施しつつある様々なプロジェクト、は往々にして日本の介護労働力不足の穴埋めとして機能するのが精いっぱいで、構想上は送り出し国と受け入れ国の還流サイクルを企画はしているが、そこには介護の持つ特性に裏打ちされた仕組みでないためか、一方通行で終わることが容易に想像できる、
なぜならば現在の日本で語られ実践されている介護を前提にして考えられているからであろう。
175病院に開設する「日本的介護研修センター(さくら)介護研修センター)」はあくまで先にふれたようにベトナム式介護の開発を目的とするため、取り掛かりとしての日本的介護の研修でありそれを習得してその後ベトナム式にアレンジすることを目的にした研修センターなのである。
あくまでベトナムの人に必要な介護を開発伝習することがこの施設の役割なのである、そのため出発は日本的介護の研修でありその指導者は日本の介護現場のスタッフであるが、その役割はベトナムのスタッフに伝習交代するのがミッションであるのだ。
私はこのような関係を持った施設がベトナムホーチミンに生まれたことに、初めて日本の介護の将来性に自信を持つのである、そのことがあって、初めて8月15日の「アジア健康構想」フォーラムが生きてくるのだと、思う次第です。
仮にさくら介護研修センターのような介護伝習施設がなかったらあのフォーラムは単なる日本的介護の宣伝行事にしか役立たず、送り出し国からの一方通行の関係から脱するのが難しいことなのかもしれない。
またこのような実践がアジア諸国でなされるきっかけとして、このフォーラムが生かされることを切望するしだいです。
であるがため、このホーチミオンのさくら介護研修センターの実践に今後のアジア健康構想の一つの、モデルとしてみてみたい。

2017年8月20日

一般社団法人国際介護人材育成事業団
理事長 金澤 剛