調査研究

 

一般社団法人 国際介護人材育成事業団の設立と目指すもの

 

2016年9月16日
一般社団法人国際介護人材育成事業団
専務理事 小沼 正昭

 

1.ASEAN諸国の高齢化と日本の支援の可能性

 

1) ASEAN諸国は、多産多死から少産少死への人口転換が完了し、高齢化は急速に進んでいる。しかも、高齢化のスピードは、日本と比較して同等もしくは非常に早いのが特徴だ。

国立社会保障・人口問題研究所: 人口の動向 日本と世界 人口統計資料集 2014、厚生労働統計協会、2014


2)各家庭で高齢者の面倒を見るという、伝統的な価値観と家族介護の社会システムが急速に揺らぎ、しだいに「介護の社会化」に対する必要性が高まる。
 特に、都市部を中心に、介護ができる家政婦の雇用、高齢者施設などへのニーズが高まる一方、若年層の都市部への人口移動で、農村部における高齢者のみ世帯の増加が顕著で、深刻な社会問題となっている。

3)しかし、自国に合致した、医療保険、年金、介護保険などの社会保障制度の確立や高齢者施策の社会的な基盤の整備が不十分で、高齢者への社会的支援、援助体制は十分とは言えない。「自分が年をとったらどうなるのか」と漠とした不安を抱く高齢者は少なくない。

4)近年、社会的弱者のための公的な社会保護施設や富裕層を対象に有料老人ホームが開設されたりしているが、極めて限定的だ。しかし、高齢者を介護する家政婦等に必要な知識や技能を学習させる研修ガイドラインが制定されたり、日本と非政府組織(NGO)によって、介護を支援する人材を育成し、活用するパイロット事業が実施されたりするなど、専門性を兼ね備えた人材を育成する動きも、徐々に広まっている。
日本の社会福祉法人が、ベトナム・フエ市の国立大、フエ医科・薬科大学に「介護人材育成コース」を開設した。この「協定書」は、受講する学生たちに、日本の介護技術と知識をベトナム人に伝え、日本で働いてもらうことで、日本の深刻な介護職不足の解消を狙う動きでもあるが、彼女彼らとのウィン、ウィンな関係構築で、将来、母国に帰国した後に、自国の高齢者福祉の専門的人材として就労することを展望している。

5)日本の介護現場の絶対的不足の中で、日本の政府は、技能実習制度の介護分野の拡充を検討している。ただし、ASEAN諸国の多くに、高齢者介護の専門職はいなく、介護人材に対する認知度はまだまだ低く、母国へ帰ることで,学んだ技術を母国で生かす環境は少ない。他方、受け入れる日本においても、技能実習制度の制度上の建前(国際貢献)と現実(出稼ぎ)との乖離は大きく、単純労働者の不足を補う事業上の抜け道となっているという厳しい指摘が存在する。
日本からの支援は、日本との文化や経済社会状況の類似点と相違点や日本の経験において得られた教訓を十分に考慮したうえで協力を実施する必要があるのはもちろんだが、同時に、送り出し国の高齢者福祉人材の育成を含めた、将来を見据えた環境の整備も怠ってはならない。

2.『介護先進国』の日本が抱える問題点

1)団塊の世代が後期高齢者(75歳)を迎える2025年問題の最大のテーマは、介護人材の不足である。

2)逼迫する『国家財政』を受けて、高齢者福祉の財源が乏しく、福祉用具の利用者負担、要支援1.2の介護サービスの縮小、介護保険料徴収の対象年齢の引き下げの動きも検討されている。

3)専門介護の確立や介護職員の待遇改善は道半ばであり、介護現場からの離職者が相次いでいる。

4)介護人材の不足を東南アジアからの労働力で補う 動きもあるが、その送り出し国も遠からず介護人材の不足が現実化し、その構図は破綻する。(×)

5)日本も含めたアジア諸国の介護人材の育成と安定的な定着は共通の課題となる。

6)2025年問題を前にして、日本の介護の現場は、海外から介護人材も含めて求めざるを得ない。しかし、それは、その場しのぎではない、そして、国際的にもきちんと説明のできる、互恵とウィン・ウィンな関係構築を基本とする、国際的な介護人材の育成を好循環システムの構築を目指したいものだ。(○)

3.私たちの提案と目指すもの

1)ASEAN諸国においては、介護に関する専門知識、技術を持った人材の需要は、ますます高まることが予想される。
EPA(経済連携協定)制度の活用も始まっているが、限界がある。

2)特に、日本の政府において、外国人技能実習生制度の介護分野の拡張が検討されているが、現行の技能実習制度は、送り出し国における、悪質なブローカーの暗躍や送り出し機関のピンはねで、借金を背負って来日せざるを得ない研修生の実態も報告されている。日本国内においても、一部の受入団体が劣悪な労働環境を強い、低賃金、残業代の不払いなど人権を無視した実態も少なくないと報告されている。そして、送り出し側、受入団体からの二重の労苦を背負わされた外国人技能実習生の『失踪』事件も多発しており、こうした構造的な要因を排除した、その場しのぎではない、十分な制度設計が必要だ。

3)特に、介護分野の外国人技能実習生の受け入れにあたっては、「単純労働者の不足を補う隠れみの」、「出稼ぎ就労」と一線を画し、帰国後に、日本での経験を生かして、母国の介護またはケアの向上に寄与できるように配慮し、この仕組みもビルトインすべきである。

4)又、日本と日本の非政府組織が、国際協力の先駆者として、ASEAN諸国の送り出し国や非政府組織との協同で、介護施設を建設し、高齢者対策分野のパイロット事業を実施することもその一歩となろう。
 大学に介護人材育成の寄付講座を開設する動きも後押しする必要がある。
 こうした施設や事業は、帰国する実習生に就労の機会を提供するだけではなく、この分野で国の将来を担うプロフェショナルを生むことになるであろう。

5)当事業団は、こうしたパイロット事業への協力を惜しまず、自らも、「日本の介護」」教育機関並びに伝習介護施設を開設し、専門性を備えた国際介護人材を確保し、相手国、地域の立場や現状を十分に理解した技術協力を推進できる人材の育成に努めていくことを目指しています。