調査研究

千田透の時代を読む視点(1)
「介護保険制度の普遍化を実現すべき」

シルバー産業新聞(2016年11月10日号)

 

 社会保障審議会介護保険部会における介護保険の見直しの議論の一つに、被保険者範囲のあり方が取り上げられている。介護保険の被保険者は、65歳以上の第1号被保険者と40歳~64歳までの2号被保険者からなるが、厚生労働省からは、「介護保険制度創設時の考え方や、将来的な給付費増と被保険者の減少の見込み、地域共生社会の実現の推進などを踏まえ、被保険者の範囲をどのように考えるか」との論点が提示されている。
個人的には、財政的な側面から制度の持続可能性を高めたいのであれば、まず先に着手すべきなのが、この被保険者範囲の拡大だと考えている。
 そもそも、介護保険制度では創設時から介護保険法附則第2条で被保険者と保険給付を受けられる者の範囲について、「法律の施行後5年を目途として検討が加えられ、その結果に基づき必要な見直し等の措置が講ぜられるべき」と、将来的に被保険者範囲の拡大していくことを想定している。
 そして、平成16年に介護保険部会がとりまとめた「「被保険者・受給者の範囲」の拡大に関する意見」では、「要介護となった理由や年齢の如何に関わらず介護を必要とする全ての人にサービスの給付を行い、併せて保険料を負担する層を拡大していくことにより、制度の普遍化の方向を目指すべき」と、基本的な方向性は出されている。やはり、そこを突き詰めていくべきであろう。
 介護保険の仕組みがあるドイツやオランダでは、高齢者に特化するのではなく、全年齢を対象とした介護サービスの保険給付が行われている。日本でも、「介護保険制度の普遍化」を目指した国民的議論を行い、若年者に納得して保険料負担をしてもらえる制度へと発展させていく必要がある。
 病気と違って、介護なんてまだまだ必要ないし、祖父母の介護は親の問題だと思っている若年者は多いかもしれない。であるならば、保険料を報酬比例にするのではなく、年齢に応じて、保険料の負担に高低をつけるなど、いろいろなやり方があるはず。生命保険などは、まさにそうだし、そうした考えを介護保険にも取り入れていく方法もある。
 いずれにせよ、被保険者の範囲を拡大するのか、しないのかが最大のポイントなのであって、「介護保険制度を普遍化」に向けて、全員で介護が必要な人を支えていくという思想が大切なのである。
 介護保険部会の議論では、「総論賛成だが時期尚早」との意見が多いようだが、果たしていつになれば「その時期」が来るのであろうか。制度改正の手続きが間に合わないという意味での時期尚早であれば、その手続きが必要な時期を逆算した議論を行えば良い。そうではなく、理解が得にくいというのであれば、理解が得にくい理由は何なのか。障がい者制度との整合性がとれないというのであれば、具体的にどうするのかなど、それぞれの課題に対し、きっとりと作業部会におろしていくようなアクションが起きないと、この先もずっと時期尚早ということになるだろう。
給付費を抑制するだけでなく、こうした裾野を広げる努力に期待したい。