調査研究

「自立支援介護」が介護の概念となるのか

 

2016年12月27日

社会福祉法人陽光 理事長
一般社団法人 国際介護人材育成事業団 理事長

金澤 剛

 


 

Ⅰ.政府の動き

 

1.<首相発言>


 首相官邸のホームページに「安倍首相が医療介護の具体的な改革実現を指示」との記事がアップされた。
 それによると、政府は2016年11月10日第2回「未来投資会議」を開催し、医療介護分野の「パラダイムシフト」を実現し、2025年に向け具体的な改革実現の進め方を討議した。会議にあたり、安倍首相は以下のように発言し、政策の具体化を関係閣僚省庁に提示をした。と、記されている。
 さて、その発言内容であるが、多少長くなるが今後の介護政策にとって重要な内容が含まれているので記す。
「団塊の世代が75歳を迎える2025年はすぐそこに迫っている。健康寿命を延ばすことが喫緊の課題であり、2025年に間に合うように「予防・健康管理」と「自立支援」を軸足に置いた新しい医療・介護システムを2020年までに本格稼働させる。
 医療ではデータ分析により個々人の状態に応じた予防や治療が可能となる。ビックデータや人工知能を最大限活用し、「予防・健康管理」や「遠隔治療」を進め、質の高い医療を実現する。」
 「「介護でもパラダイムシフト」を起こす。「自立支援」を軸足に置き、本人が望む限り介護が要らない状態までの回復をできる限り目指す。見守りセンサーやロボット等を開発、導入し、介護に携わる方々の負担を軽減するとともに、介護現場にいる皆さんが自分たちの努力やあるいは能力を生かしていくことによって、要介護度が下がっていく達成感をともに味わうことができるようにする。」
 「特定の先進事例を予算などで後押しするだけでなく医療や介護の報酬や人員配置基準といった制度の改革に踏み込んでいく。」
 と、発言している。

 2.「未来投資会議」とは

 

 発言の場である「未来投資会議」とは、議長を内閣総理大臣とし、その直轄のもと内閣官房、日本経済再生本部に位置付けられた機構。
 その組織目標は、会議開催資料によると、
 『日本経済再生本部の下、第4次産業革命をはじめとする将来の成長に資する分野における大胆な官民連携を進め、「未来への投資」の拡大に向けた成長戦略と構造改革の加速度を図るため、産業競争力会議及び未来投資に向けた官民対話を発展的に統合した成長戦略の司令塔として「未来投資会議」を開催するとしている。』

3.構造改革徹底推進会合とは


 その開催資料によると、
 「日本再興戦略」に基づく有構造改革その他の成長戦略の総ざらいを行い、成長戦略の更なる深化、加速化を図るため個別の議題について分野別に集中的な調査審議を行う会議。
 いわば「未来投資会議」の作業部会の位置づけ。
部会として、
 1、「第4次産業革命、イノベーション」会合
   会長:竹中 平蔵(東洋大学教授)
 1、「企業関連制度改革・産業構造改革-長期投資と大胆な再編の促進」会合
   会長:小林 喜光(経済同友会代表幹事)
 1、「医学・介護-生活者の暮らしを豊かに」会合
   会長:翁 百合(株式会社 日本総合研究所 副理事長)
 1、「ローカルアベノミクス(農学・観光・スポーツ・中小企業等)の深化」会合
   会長:日本商工会議所会頭
 の構成である。

 以上の会議が現在急ピッチで進行し、先の構造改革徹底推進会合は各パートにわかれ、10月より勢力的に各会議が開催され、議論を深めるに至っている。
 それを受けて「未来投資会議」も、9月12日の第1回会議につづき、11月10日に第2回会議を開催している。

4.第2回会議内容


  その会議のテーマとして、「医療・介護の未来投資と課題」をとりあげている。その会議のプレゼンテーターの中で医療・介護にかかわるのは、
 ①健全かつ接続可能な介護保険のために、自立支援介護のすすめ
  国際医療福祉大学院 竹内 孝仁
 ②自立支援介護の実践
  社会福祉法人 正吉福祉会
  杜の国・上原 特別用老人ホーム 正吉苑 施設長:齊藤 貴也
 ③医療・介護現場を変革し、国民の将来不安を払拭する
  「医療・介護-生活者の暮らしを豊かに」会合
  会長:翁 百合
  副会長:高橋 泰
 ④医療・介護分野におけるICT活用
  塩崎厚生労働大臣

5.それぞれの委員のプレゼンテーションは


 ①の竹内氏は、
 自立支援介護の実践の結果、自立度があがり、その結果がもたらす経済的効果ははげしく、これがふえつづける介護保険料の削減につながるとの実証を含め発表し、自立支援介護が今後の政策として位置づけられることの重要性を主張。
 ③の翁氏の主張は、
 具体的に自立支援介護の全国展開をするには、介護報酬に組み込む必要がある。

具体的提案としては、
(イ)自立支援のための介護の構造化、標準化
 (どのような状態に対しどのような介護が効果的か、自立支援に質する介護の内容はどのようなものかを定める)に向けて、早急に検討を開始し、来年秋までに取りまとめるべき。
(ロ)自立支援に向けた自治体の取組へのインセンティブ付けを行うとともに、2018年度介護報酬改定で、自立支援によって要介護を改善させた事業所に対し、インセンティブ措置を導入すべき。
(ハ)構造化・標準化された介護の内容を踏まえて現場へ周知し、教育課程に盛り込むとともに介護記録のデータの標準化と、入力負担軽減技術での開発・データ利活用基盤の構築、2018年度早期に着手すべき。
(ニ)これにより得られるデータをエビデンスと自立支援を行う事業所の広がりを踏まえ、自立支援の標準的な取組みを行わない事業所に対するディスインセンティブとなる仕組みをも検討すべき。
(ホ)日本における自立支援介護の先進的な取組みを先端モデルとして発信し、アジア等における高度な介護人材の育成、還流につなげる。
 と、提案している。

 ④塩崎厚生労働大臣の提案
 ICTを活用した自立支援重度化防止に向けた介護に関する取組の展開
1、科学的に裏付けられた介護の普及
 課題として
 現在の介護保険総合データベースでは、サービス種別は分かっても提供されたケアの内容までは記録されていない。
 そしてその現状は、同じ通所介護でも
①・自立支援指向の介護
 (本人ができる部分はしてもらい、できない部分は介助しつつ訓練)
②・自立支援を意識しない介護
 (本人ができる部分についても介護してしまう)
この①・②の区分が明確ではなくこれを明確にするためにデータベースをつくりその結果「科学的に裏付けされた介護」の普及。そのため、介護報酬等での評価によるインセンティブと説明され、2020年以降実施される作業工程をも提案されている。

Ⅱ.さて私共の課題は


 このように政府は今後の介護のありかたとして、「自立支援」介護を明確に位置づけつつある。それに対し、全国老施協は平成28年12月5日に塩崎厚生労働大臣あてに会長名でいわゆる「自立支援介護」について(意見)との「意見」を提出している。
 それによると、今回の有識者発言の中で「自立支援介護」によって要介護度を改善させた事業所にはインセンティブを、又そうでない事業所にはディスインセンティブを課すとの提案に対し、いわゆる「自立支援介護」は自立支援が本来持つべき幅広い価値観の中から要介護度改善を唯一の評価
尺度におき、自立支援の概念を固定化することで給付費抑制につなげるとして不当であると訴えている。
 その「意見」を読むと、なんとなく全国老施協の組織的焦りを感じる。
 今回の「未来投資会議」などの2025年に向けた政策検討の動きの中に老施協が蚊帳の外にいることに対する焦りであるのであろうか。
 それはさておき、「意見」には「今回示されたいわゆる「自立支援介護の取組みについても、あくまで介護保険制度の包括的な精神を実現するために個々の事業者の判断並びに努力によって実践されるアプリケーションのひとつであるにすぎず、すべての施設、事業所 並びに対象者に対する普遍性を持たないことから、すべからく義務とすべきではありません。
と、主張されている。
 だが、問題なのは今回の委員である竹内氏等が主張、実践してきた「自立支援介護」は事実として、介護度等の軽減を証明していることです。その事実から、普遍性を見い出すことも、科学としての介護を生み出すことになると私は考えています。確かに今もなお、全国の介護実践現場にあっては、真の自立支援の確立のための格闘がつづいています。ただ、その全国で実践されている介護をただ、実施されているからと言い、すべてが「介護」であり又、それぞれの介護方法をそれぞれに「アプリケーション」の一つであるなど言う時代はそろそろ終わりにしたいものだ。
 なにせ、今回の会議の招集者である安倍首相から設定された会議開催主題、テーマは「介護のパラダイムシフト」なのであるからである。ちなみに「パラダイムシフト」をウィキペディアで調べると、「その時代や分野において当然のことと考えていた認識や思想、社会全体の価値観などが革命的にもしくは劇的に変化することを言う」と、説明されている。そのテーマそのものから判断すると、現在語られている「介護」あるいはその現場そのものの変革を検討する場なのであろう。

 私は先に、日本で「介護」を生み出したのは三つの流れがあると記した。
 (「日本の介護」を必要とする国、必要とする人々に伝えるために)
その①は、「介護のこころ」を大事にし、その心根を底においた福祉、あるいは措置の時代からの日本的介護の源流。
②は、「介護手法」として、「看護過程」ならぬ「介護過程」手法を使用し、利用者に対する介護手法をつくりあげている看護を出自とする流れ。
③は、リハビリテーション医を中心とした、ADLの向上があればIADLをも当然向上してくると主張流れ。
また、この①、②、③それぞれの介護のコラボレーションが現在の日本的介護であり、それを前提としたあるいは、出発点として「日本的介護」を型作っていくことが私共の使命であろうと記した。このなんでもあれとの介護論から出発し、それぞれにブラッシュアップする過程で今必要な「日本的介護」が生まれるはずだと、記した。その意味で、全国の老施協の意見はよく理解はできる。
 だがしかし、その時代に終わりを告げる必要が生じたのである。それが言葉を変えれば、2025年問題解決の出発点と言えるのかもしれない。たしかに介護のパラダイムシフトを時代的に要求されているのではないか。

Ⅲ、私共の実践


 私共の施設は開設して13年のまだ若い特別養護老人ホームである。開設後はどこにでもあるスタンダードの介護手法であり又、その風影であった当時私共の合言葉は「利用者の尊厳を守る介護、そしてその手法として、利用者の自立性を重んじる」でした。
 その結果、世に言う見守り介護、あるいは寄り添う介護でした。
 だがしかし、数年経過した後、私共は介護の方向性に対してハンドルを切ったのでした。それはスタッフの一語からでした。
 「入所利用者は三食昼寝付き、冷暖房の部屋で風光明媚な部屋で生活しているけど、やはり徐々に生活力とでも言う生命力が少なくなってきている。はたしてこれで良いのかしら」との疑問がこのごろ常に頭に浮かぶ。との言葉でした。
 それを聞いた私共は全員ハッとしました。当時皆、同じことを思っていたのでしょう。それを契機に私共は、全国老施協が主催している介護セミナーいわゆる竹内セミナーに参加したのでした。それが自立支援介護を介護手法としはじめたのでした。
 その結果、介護度4の利用者が歩きはじめ、胃瘻をつくられチューブで栄養をとっていた人が口から食を又、ある人は憧れであった魚釣りに出かけるほどの世界を1年たたずして作り上げることが出来ました。
 この実践から見えてきたものは、この自立支援介護の実践に入る前の私共の介護は利用者の自立性にまかせると称し、本来もっていた利用者の「生きる力」をそいでいたのではないか又、施設はそのような「お迎え」をまつ場として私共スタッフも利用者本人も家族も、そして地域も社会全体もそう位置づけていたのではないか。その結果、本来利用者がもっている生きる力を削いでしまっていたのではないかとの反省でした。
 今言えることは、介護手法の一つとして位置づけられている「寄り添い介護」などは一般的、社会生活を送る力を有している利用者にとっては否定の対象となる介護手法ではないのかとの確信であります。その意味で全国老施協の意見に記されて、また全体の主張である「介護」の多様性一般の主張に対し疑問をもたざるを得ません。

Ⅳ、私たちのしごとは


 当然利用者はあるいは介護を必要とする人は、一人一人その必要とする所は違う。介護する側もその個別性に対し、個別対応するのは当然のことである。私共の経験は少なくとも私共の施設入所者50人のうち、老施協の言う「あまねく誰もがそうであるように経年とともに健康状態が悪化する自然の摂理に他なりません」との定義に反し、それまでベッド生活をしていた人等々活動性を広げはじめたのである。その方法が介護手が竹内氏の言う4大介護法の実践によることは否定はできません。
 ただ問題なのは、今私共の仕事としてその4大介護の実践がなぜ利用者のADLを向上させそして、IADLをも広げていくのかの科学的根拠を明確にすることだと思っています。そのことはどのような人にこの介護が有用性があり、またどのような人、あるいはステージの人たちに有用性がないのかを判断するポイントになるからです。
  又、同様に私共の経験では、認知症の利用者のいわゆる周辺症状をも、4大介護の実践により徐々に軽減される人達もいます。それはその実践を前提としてただその際、重要なのは介護する側の利用者に対する考え方、あるいはまなざしの問題でありました。
 するとそれは例えば、「バリデーション」「回想法」等々で語られている介護手法と共通することでした。問題なのは、認知症の利用者を深く理解することでありました。このような事例を考えてみると、今私たちが言えるのは老施協が主張する様に介護の多様性をそれぞれに否定することは出来ない。
 しかし、ただ違うのは意味のないあるいは逆行する介護手法をも現在内存していることの現実である。それがあったから私共は「自立支援介護」の実践にうつったのであった。

Ⅴ、私共の課題


課題1
 「自立支援介護」の実践にハンドルを切った私共は、次々に課題が生まれてくる。その中で最大の課題は、「自立支援介護」がどのような人に有用性があり又、どのような人にないのかなどの判断基準を明確にする必要である。
 例えばターミナルステージの人達に対する介護方法等との関係などである。だが少なくとも現在確信をもって言えることは、安倍首相からの宿題である「介護が要らない状態までの回復をできる限り目指す」ことと、「ひいては健康寿命をのばす」ことに対しては、「自立支援介護」の実践は有用性があることは証明できつつある。
 だが問題なのは、それを実践的に深掘りし、そのことを人に伝える手段の獲得のような気がしている。その為、共は来年度の作業として以下の計画の実行を現在検討している。

 

 

社会福祉法人 陽光
来年度事業計画書をつくるにあたって提案
―来年度は「自立支援介護」を定着させる年としよう―

(第一報)


Ⅰ.自立支援介護技術向上
 ※それはどのようなことかイメージする為に
まずは基本介護の必要性を人に伝える為に理由を科学する。
科学に「うらうち」された「介護技術」の向上のために。
その課題を深めるためにまた四大介護を介護技術として深めるために今思いつくままに課題として考えられる事を記してみる。

1.認知症に関して
 あらためて私どもの共通認識として。
医療界では基礎疾患による分類による介護方法など語っているが介護現場に於いてはその有用性はなくそれよりむしろ周辺症状の出現の仕方によりタイプ別分類をし、それに応じた介護方法にて介護を実践。
 それが有効なのは認知症の周辺症状は「現実の自分と自分が考えている自分とが適応不全を起こしている状態」と言い換えることが出来るからである。
 そのために認知症である自分をつくりあげてきた時間、環境、歴史等の条件により個性が違ってくるのは当然でその個性にあった介護方法を探るのが当然である。
 そのためにタイプ別分類をし、それに合った介護方法を実践。
私どもの課題はタイプ別分類に応じた介護方法により有効性が生じた場合はなぜなのかを考えることである。
 そのために臨床心理士が使用しているカウンセリング技術を認知症ケアに応用可能か?
また介護世界ではバリデーション、回想法等々、その手法の有効性はある程度実証されているが、問題なのはなぜそれが有効、あるいは有用であるかの説明を深め、その手法によって立つ根拠を見つけだす作業が必要である。
 その結果、利用者に接する介護側のスタイルを介護技術として確立し、また、介護手法の有効性を評価するための認知症の周辺症状の改善の評価基準確立をしたい。

2.介護技術としての給食の確立
 高齢者施設に於ける給食について
 一般的に人は加齢とともに食事摂取量が低下する。また、その一方で必要とされるエネルギーの目安としては
60才男性2,000kcal   女性1,700kcal
70才男性1,800kcal   女性1,550kcal
と言われている。
加齢は生理機能を衰退させ臓器が委縮し機能低下を招き、また、骨格筋量も減少し、その結果当然基礎代謝量も低下する。
具体的には ①視力低下
      ②嗅覚の低下
      ③味覚の低下
      ④消化液の分泌低下
      ⑤消化器の運動機能低下
      ⑥運動機能の低下
などが必然化する。
このような加齢による身体変化は当然食欲そのものが減じていくのは必然である。
それにもまし、施設に於いては日々の生活変化に乏しく社会的あるいは環境から受ける刺激に乏しく、また三食が完全に保障される生活を送っている。食欲が減じるのは当たり前である。そもそも食事は「食べる事」「栄養を取る」ということではなく、生活の一部であり文化である。
施設に於いては一般的な家庭生活をより強く食事に対し「感激」を演出する必要がありこのような給食を「食事」として提供するノウハウを意識する必要がある。そのような食事を創り出すことを食事に関する「介護技術」と位置付け、その技術の向上を図る必要がある。

3.水分と介護
 人は加齢とともに筋肉量が低下、体液が減少、そしてまた喉の渇きを感じる「口渇中枢」機能の低下を生じ、その結果渇きを感じづらくなり水分摂取が遅れがちになる。
 また、腎臓機能の低下により食事量そのものの減少等によりどうしても水分摂取が不足し脱水になりやすくなる。
 その水分量の減少は当然Na、Kなどの電解質の減少を生じ、脱水症状の悪化をもたらす。それにも増し、高齢者は様々な基礎疾患を持っているのが一般的である。

 ①脳血管障害
 ②認知症
 ③慢性呼吸器疾患
 ④糖尿病
 ⑤高血圧、心不全
 ⑥嘔吐、下痢、発熱、発汗を伴う疾患
等、高齢者は何らかの疾患を抱えているのが一般的であり、その疾患のいずれも脱水を誘発しやすい。このような高齢者に対し、水分の提供は当然のことであるし、介護そのものの基本であり、その科学性を介護側から主張するのは義務である。
 そのため例えば心不全等の心疾患と水分の提供の関係は体重変動と脱水の相関の中で一人一人の利用者に適した水分を提供するのは介護の義務であり、介護技術である。

※ほかに運動、排泄など私どもが基本介護と語り介護の基礎であると位置付けてきた対象に対し、なぜ基礎であるのかなど含めて今一度深く検証し、その行為を科学へと導く必要がある。それにうらうちされた「介護技術」の確立を必要とする。

Ⅱ.地域にて自立支援介護の実践

1.認知症に見ることが出来る様に異常行動は地域社会の基準あるいは規範からして異常であり、確かに正常ではないことでもその規準の拡大=認知症の人の行動の了解と、理解があれば認知症の人も落ち着いていくであろう。そのような地域あるいは常識をつくる必要がある。その「言いだしっぺ」が我々であるはずだ。
 また、四大介護の実践の意味と効果を実証し、それを地域住民に知らせ教育する必要がある。このようにして「陽光」の地区、地域は健康年齢の長さで全国に誇る地域となる。

2.先のⅠ‐1の手法を使用し、Ⅱの実践を通して地域にて認知症の周辺症状の軽減をはかる。「陽光版」認知症サポーターの育成をはかり、地域にとって「元気の源」となる施設として「みかん」を位置づける。

Ⅲ.医療と介護の領域確定

 Ⅰ‐3、水分と介護の所に記したが、例えば心疾患の高齢者の適正水分量の確定等、医療が持つ科学と介護が必要とする生活力評価の両者の関係を最大限有効に活用することでその利用者個人の適量が決まるはずである。このようなことが現実的に必要となってきている。また、この両者の関係が私どもが自立支援介護の実践を通し、介護力の存在の自信と確信がはじめて介護側から医療の必要性を感じ位置づけることが可能となった。今までは医療側からは本質的に介護の力を位置づけることがなかったからこの段階にきたのである。医療と介護の領域を確定する作業の第一歩を始めよう。
●医療にとって必要な介護は
●介護にとって必要な医療は
との問題意識を具体化する作業を開始しよう。

Ⅳ.介護技術を世界に伝えよう

 幸か不幸か、日本は結果的に「職業としての介護」の先進国である。この介護技術を必要とする国、必要とする人に伝える。今私どもは自立支援介護の定着、あるいは科学としての介護技術の完成に向けた作業を開始する。
 その介護技術は時を経ずして高齢化社会の到来が待っているアジア諸国に伝えよう。
 時は「技能実習生制度」の介護職までの拡大を決定しつつある。
 本制度は技能実習とは名ばかりで現実は出稼ぎであるし、また安価な労働力、日本への導入でしかない。
 この構図の中で介護職を位置づけても無理があり、開始して早々に矛盾が現出するのは見えている。今我々は我々が作りつつある「自立支援介護技術」を必要とするアジア諸国に伝える必要がある。その為に私どもは率先してアジア諸国の実習生を受け入れたいものである。
 その為に同時に彼等彼女が母国に帰り、母国の就職先としての介護施設を同時に作り上げる必要がある。
 その為にアジア諸国の諸機関とも深いつながりを今から目的意識的に作り上げる必要がある。
 その為本年7月に一般社団法人国際介護人材育成事業団を開設し、全国の心ある仲間と活動を開始したところである。
 私は社会福祉法人 陽光の今後はこのようなことを実行する集団と思っている。
 先にこの5ヶ年間の総括を記したが、これは今後の私どもが行く先のイメージを記してみました。
 皆様の活発な議論を期待して。

課題2
 診療報酬について
 自立支援介護の実践はたしかに、介護必要度を下げる結果を生む。
 そのことは、現在の介護にかかわる診療報酬では保険点数も同時に下がる結果を生む。
 確かに介護保険の制度設計をした当時は、介護度が下がることは想定にいれてなかったのであろう。
 その後、予防を中心にして加算としてそれに対してはインセンティブとして賦課されたが、診療報酬体系として抜本的に位置づけるに至っていない。
 従って今回の「未来投資会議」の議論の深まりとそれを受けた政策に対して期待したいものである。

議題3
 住まいについて
家庭に於ける介護力の崩壊は、家族を介護することにより過程そのものの崩壊につながるほどである。そのためか、政府は介護離職ゼロを重要政策としてあげている。
 私共も、自立支援介護の実践を開始するにあたり特別養護老人ホームでありながら「在宅復帰」をかかげた。
 そして実践の結果、在宅生活が可能なところまでADLの改善を生むことが出来た利用者を生むに至った。
 だが現実はそれとちがう課題が生じてきた。
 特別養護老人ホームの入所者は帰る所が消えるのである。それは現在の社会状態から見れば、ごく当然のことなのである。家庭介護力の崩壊の現実は、たとえ本人が望んでも一端施設に入所したら家庭側も帰ってきてもらったら困るのである。それぐらい現在の家庭介護力の崩壊は進んでいるのであろう。
 自立支援介護の実践の結果ADLの改善をした利用者の住居あるいは生活スタイルの問題を整理する必要を、私共の実践は課題として残した。
 このような現実をも、現在議論が深められている。
 「会議」で深め結果を提示、政策化されることに期待したい。

※特別養護老人ホームみかんの丘ホームページ
理事長のつぶやき
「日本の介護」を必要とする国、必要とする人々に伝えるために
2016年2月23日
「自立支援介護の実践3ヶ年目~介護必要度を下げる運動から見えてきたものは~」
2014年6月24日を御覧ください。