調査研究

 

「日本の介護」を必要とする国、
必要とする人々に伝えるために(4)

 

(2016年2月23日)

社会福祉法人陽光 理事長

金澤 剛

第4章 台湾に見る介護の専門性の必要度

 
1.台湾に於ける外国人労働者の就労状況(2014年現在)

①外国人労働者は2種類の「外国専業人員」
  専門的・技術的分野で働く
  「外籍労Ⅰ」・・特定の技能や経験を有しない単純労働者
  「外国専業人員」は28,559人、「外籍労Ⅰ」は55万1596人であり、そのうち介護などの「社福外籍労Ⅰ」は22万0011人である。

②台湾の高度産業化
 1987年の戒厳令の解除以降、道路港湾などのインフラ整備を目的とした公共投資の拡大により産業の活性化がはじまった。その結果、労働力の不足が生じそれを外国籍の労働者により補ってきた現実が先行し、非合法入国就労等の問題が社会問題化し1989年「政府プロジェクト公共工事に係る雇用需要対策法」を制定し、国策として外国人労働者を受け入れはじめた。

③外国人受け入れ制度の概要
 外国人就業を規程する法として「就業サービス法」がある。
 基本理念
 国民の就労権を保障するために国民の就労機会、労働条件、国民経済の発展及び社会の安全を防げない限りにおいて外国人労働者を受け入れる。
 また、「雇い主が主管機関に雇用許可申請をしない外国人は就労ができない」職種としては、第Ⅰ類 外国人労働者として専門技術者など7職種
 第Ⅱ類 外国人労働者として家政婦ヘルパーなどを含む4職種
 とした。また、ヘルパーなどを雇うには
 1.雇う側が介護認定を受けている
 1.80歳以上で重度で24時間介護を必要とする高齢者に対しては台湾人介護人でなければならない
 1.退職準備金、退職手当を有し、その証明が必要
 とし規準を厳格にした。ただし、居宅介護ヘルパーの雇い主はこれを免除できるとした。

④外籍家庭看護工(外国人居宅ヘルパー)
  外国籍労働者は2国間協定に基づき実施。協定締結国はインドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナム、モンゴル。2014年現在外国人労働者は55万人で台湾の就業者総数1,111万人の5%となっている。
 内訳は 産業就労者 33万人
     社福就労者 22万人 であり、全体の約40%が社福就労である。
 一方、社福外籍労Ⅰの就労先内訳は
    介護福祉施設  1万3千人
    居宅ヘルパー  20万5千人
    家政婦        2千人 であり、ほぼ全員が住み込み型ヘルパーであり、介護のみならず、育児をも含め家事一切を仕事としている。いわば「女中」さんである。また、その数は年々増加してきている。そのことは65歳以上で介護を必要とする高齢者を家庭で看ているのは主婦が約40%で一番多く、つづいて外国人ヘルパーで約20%である。外国人介護労働者の出身国はインドネシア17万5千人、フィリピン2万5千人、ベトナム2万人、タイ666人となっている。このうちタイが少ないのは家事労働は労働保護法の対象外であり最低賃金さえ保障されていないため、タイ政府が自国民の派遣に消極的であるためである。

⑤外国籍ヘルパーの需要拡大と国内事情
 台湾の文化として儒教思想が根付いており「養老」を道徳基準に持つ「孝道」倫理も生活の深くに根付いている。それに基づいて法的にも「法定の扶養義務者は老人扶養の責を負う」と明示されている。
 その結果、中間階層以上の扶養義務者の多くは自己負担をもって介護を行っており、しかも扶養義務の遺棄などは罰金なども科せられている。その結果公的介護サービス等の受給に関しては条件が厳しくされている。
 このような台湾の家族による扶養を介護と呼ぶ伝統的価値観と送り出し国の経済的困窮からの脱出のための介護ヘルパーの存在が台湾の外国籍介護ヘルパーを生む土台である。

⑥女性の就業率の上昇
 25歳から44歳までの女性の就業率は1988年では55.6%であったが、2013年79.1%になり25年間に23.3%上昇した。また、女性の就労者は若い世代ほど高く、結果的に3世代の大家族から核家族化している。
 しかし、一方で伝統的価値観である女性が一家の家事を切り盛りし、それを支えるのは主婦であるとの風潮はくずれることはまだあまりない。その結果、外国籍ヘルパーの増加を生んでいる。台湾におけるこの構造は高度経済成長を支える手段として位置づけてきたのである。すなわち、労働力の不足を女性の就労で補い、家庭内の子どもの養育、家族の介護力家事一切を担う女性の代替労働力として外国人労働者をヘルパーあるいはメイドとして採用してきたのである。従って当然低コストの必要があり、様々な課題を生むのも当然であった。
 だが、現在に至って日本の介護保険と同様の保険制度の導入が社会的にも必要となり、その導入を現実的に計画として2007年から政策化されてはいる。その必要は第一に高齢化社会化の深化はただ単に外国籍労働者の労働力だけでは量・質、両面から不足をきたし結果的に介護そのものは社会全体のシステムとして形作る必要が真に迫ってきたのである。そこで実施に向け計画が作られ、その草案によると目的として?介護サービス体系の整備拡充、?サービスの質の確保、?介護を受ける人々の権益保障、が掲げられている。その草案をもとに現実的案の策定に入ったが、その中で介護の質の担保として介護保険適用の条件としている。しかし、介護の現場の大多数を担っている「個人介護者」を家族が私的に雇う家族労働者と規定し、この「個人介護者」は訓練を受ける義務はなく結果的に公的介護保険の適用外になるとの位置づけである。
 このようにして台湾政府は「介護」そのものを時代に合うようにして専門化しようとしているのだ。しかし、実現までには当面の曲節が想像できる。だが、外国人介護ヘルパーにせよ台湾人ヘルパーにせよ、介護の質の向上、あるいは専門化へのハードルは超える必要があり、この介護保険は介護の質の向上を前提としているのだ。
 この台湾の現状は日本の抱えている問題と同根である。台湾にあっては経済の高度成長を支えた外国人ヘルパー積極的導入策、そして少子高齢化社会の到来とそれに付随する介護の社会化。そして、それを保障する介護の専門化と専門職の登場。今、台湾にあっては単純に外国籍メイドにて家庭介護を充足する時代に終わりを告げようとしている。公的介護保険の施行は介護の専門性にて保障され、その専門家なくして成り立たない制度である。
 一方、わが国では2025年問題として介護職の圧倒的不足が予想される中、外国人介護職の導入の必要がさけばれている。しかし、それは単に労働力不足の解決策としてしか語られていない。
 その意味で現在台湾における課題を対岸の火と見ることなく、外国人介護労働者の質の向上と確保の視点からこの問題に対処する必要がある。

 

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