事業団のこれから

~コロナ禍時代の事業団を取り巻く課題とその整理から~

2021年1月21日

一般社団法人国際介護人材育成事業団

理事長 金澤剛

 

Ⅰ はじめに

 

2021年もコロナで開けた、昨年1年はコロナで始まりコロナで暮れた。

この一年、近代日本がこの間追い求めていた支えである「成長至上主義とグローバル社会化」に対し、否応もいなく急ブレーキをかけられた一年と言い換えることができるのであろう。

また、今後どの方向に社会全体が進むかを決めるときなど、理念がいかに必要なことなのか、明らかに実証されることとなった一年でもあった。

そのことは、何も絵空事ではない、例えば、現在の政権のコロナ対策を見ても明らかである。

時の政治状況の中にて いかに自己の政治勢力が有利に働くかのみを判断基準に据え、そもそものコロナ蔓延を収束させ、あるいはポストコロナ禍社会の方向性を判断基準に据えた政策なり方針を出すこととは無縁の世界になりつつあるようだ。

この現実を見ても明らかなのである、理念喪失の社会と言い換えてもよいほどだ。

この弊害が、我々に否応もなしにこの身に押しかかりつつあるようだ。

さて、このことは、我々国際介護人材育成事業団(以下、事業団という)にとっても対岸の火事とみておくわけにはいかないようだ。

事業団は、そもそも「介護人材の国際的好循環」を形作ることを目的に、あるいは介護のグローバルスタンダードを作ることを目的とした集団として出発した。

その集団を形作るために、介護現場の悲願であるスタッフの充足対策として外国の若者を不足現場に迎い入れる策としても、「技能実習制度」の忠実な実施を当面の戦術として定めたのであった。それは高邁な理念を声高に掲げるのではなく、介護現場の必要不可欠なスタッフの充足対策、そのために今後介護が必要となる国、あるいは現に必要となっている国の若者に、日本の介護現場にて就労、実習することで介護を習得し、そのうえで母国に帰り、母国にあった介護を形作る中心的人材になることを願った方法を実践し始めることにしたのであった。

活動開始後6年、ようやくその描いた絵がほんの少し描け始めたのである。

すると、当然なことに我々集団の中に思いの違い、あるいは参加目的の違いからか、我々の集団に対するかかわりの強弱が見え始めつつあるのが昨今である。

ある会員は、事業団の理念である「介護人材の国際的好循環」をいかに実現し日本の介護の在り方を原則的に問い詰めることに重きを置き、また大半の会員がそうであるように介護現場のスタッフ不足対策とし入会し何とかして不足の窮状を脱したい、とした。

極論すれば、この2分類の目的を持った個人あるいは事業所の集合体が事業体であろう。

我々はこの2分類の目的を持った集団であることを常に全会員の共通認識として運営してきたし、これからもそうありたい。

それは、この2方分類が矛盾する領域ではなく事業団の目的達成に向かう「大河」から見れば同じ川の流れの中にあるからだ。

この大河を理念と言い換えてもよい。

また、我々は常に現実の介護現場の経営の中からの課題提出並びに解決策を模索する集団でありたい。

また、その解決能力の高さで他の集団より秀でていたい、それを誇りとしていきたいものだ。

それがためにも、当然他の介護現場に参加を促し、結果的に一つの勢力として自立させることを当面の目的とする。

このような我々の集団の在り方を改めて確認し、事業団を取り巻く課題の整理する中からそれをもとに、本年のやるべきことを考えてみよう。

 

Ⅱ 課題

 

1.技能実習制度にかかわりの中に見える新たな課題

事業団は、その独自の活動の末、ミャンマーからの実習生を迎い入れ、今年も早々からコロナ禍の緊急事態宣言発令の間隙をぬって第3期生を迎えることとなった。

それは、そもそも技能実習制度下において介護実習生を迎い入れるモデル足らんとして全国の必要とする機関に先駆けて開始した事業の成果であった。

一方、国も制度を整理、その結果、全国に2020年3月には約9千人の介護技能実習生が送り出し国から迎い入れることとなったのである。

このことは、一方で介護技能実習生迎い入れの先駆けたらんとした我々の役割の終了を意味している。

この国の実績は、送り出し機関、迎い入れ監理団体の既存のルート並びに制度に従った迎い入れであり、その間心配された齟齬は生じることがなく進行していることの証である。

さて今からは、第2幕の幕開けであろう。我々の真骨頂が試される時が来たようだ。

それは、既存のルートと我々がそれに介入することの意味合いの違いを発揮することが改めて要求されることとなったことでもある。

このことが技能実習制度にかかわる我々の現下の課題である。

 

2.特定技能制度のかかわりに関する課題

特定技能制度は、2019年に予定されている参議院選挙を前にして前年12月に議論を深めることなく突然生まれた制度である。

それには中小企業の圧倒的な人材不足対策を産業界から強く要求されていたことに応えることでもあった。

その意味で、確かに選挙対策の色が強い始まりであった。

建前はともかく、実質的には技能実習制度の運用を整理し、即戦力となる人材獲得方法の合理化と拡大を目的とした制度を目指した。

それは、技能実習制度の現実運用の曖昧さを止揚しようとした制度でもあった。

実習生の失踪などの主なる原因となっていた中間搾取と借金問題などの整理のためにも、採用企業の海外からの直接採用を促し、あたかも日本国内においての採用方法と同様な手法を計画した。

一方、実習生という名の労働者との曖昧さをなくし、労基法適用者と身分を明確化したのである。

また、在留期間を5年とし、その後も業種と熟練度によれば家族の帯同の可能な制度として計画した。

その狙いは、国際的に批判が絶えない技能実習生制度の改変を意識し、技能実習生の受け皿として役割も持たせたのでもあった。

働き手が不足する14業種を対象に実施から5か年で、34万5千人の採用予定と計画された。

しかし、現実の進行は2019年4月の運用開始から一年の2020年3月末で3,944人、47,550人の計画であったのでわずか8.3パーセントの進行である。

その後は、2020年6月末では5,950人、その国別内訳はベトナム3,500人中国597人インドネシア558人フィリピン36人、ミャンマー291人その他となっている。

2019年4月フィリピンから始まった特定技能資格者試験は、関連諸国と日本国内で実施され、2020年6月段階で建設業以外の産業で18,000人の合格者を輩出している。そのうち介護は3,620人。

しかし、その中から新たに在留許可を交付した介護人材の数はわずか214人、内訳は試験合格者147人、EPAからの移行67人である。ちなみにミャンマー人は13人、これが特定技能にかかる現状です。

 

それでは進まない理由を探ってみよう

 

それは、見方を送り出し国側から見れば理解できる。

送り出し国にとって国民を外国に送り出し送金を受けることが重要な産業と位置付けているのである、「労働輸出」なのである。

2019年世界銀行のデーターによる「海外の労働者が自国に送金した受領額ランキング」の中でASEAN諸国ランキングを見ると

また、例えばベトナムにおいて日本への「労働輸出」人数は2019年にあっては40万1326人、前年度から約8万5千人ふえているのである、成長産業なのである。

この産業を支える機関も送り出し機関など中心にして国内に確固としたポジションを確保している。

そちらの側から見ると、日本政府が企画した日本の採用企業のベトナムにおける直接雇用など認めるわけには行かないのである、そのことは既得権者にとって、その既得権を侵されることなのである。

ミャンマーなどの他の国ぐにも同様な事情を持っている。

そこで事業を進めるために、送り出し国と2国間協定をそれぞれに締結することとなり、結果的に、ベトナム、ミャンマーなどとの協議では技能実習制度にかかわる送り出し機関の送り出し条件に不利益が生じないよう条件設定に至ったのである。

結果的に、送り出し国から見れば技能実習制度との差異がほとんど見ることができない制度として特定技能制度となり、かえって既得権者のさらなる保護に向かう制度として形作られつつある。

結果的に、当初日本の産業界が目指した採用にかかる費用の透明化並びに低減化等はあまり効果を発してはいないのであるが、受け入れる日本においては、技能実習制度に次ぐ新たな制度としてスムーズな運営を待ち焦がれているのであるが。

それが効してか、両国の政治的配慮か、あるいは日本側の強い要求からか 昨今 何らかの調整が済みつつあるのか、この頃特定技能制度も徐々に動き始めつつあるようだ。

例えば、これまで遅々として動かず、まるでカタツムリの動きのようだと揶揄されていたミャンマー政府もここにきて動き出す予兆が見えだした。

昨年2月、3月に実施してその後何故か実施されてなかった特定技能評価試験も本年1月19日から2月20日までほぼ毎日ヤンゴンにて実施が予定された、それも公表と同じに満席になったようだ。

また、もう一つの要件である日本語能力N4以上の能力を計る、Jテスト日本語検定試験がようやく1月17日に実施が決まり、それぞれに合格して他の要件を満たせば最短で6月末にも来日可能となるようだ。

同時に 日本国内では厚労省が特定技能採用予定企業に対し、求人票の提出を求め1月7日までに厚労省に提出しそれをまとめてミャンマー政府に提出すると決まり実施。

ここにきて本格的動きが見え始めてきている。

また、先駆けて昨年12月末に10人の介護特定技能生が来日し介護現場に就労すべく現在来日講習中である。

このように、何となく特定技能も徐々にではあるが本格化に向けて動き出す気配である。

しかし、大所のベトナム、中国ではいまだ試験は実施されていないが。

さて、我々はどうするか。

 

3.出稼ぎ目的留学規制に見える課題

2008福田内閣が高らかに宣言した「日本を世界に開かれた国とし、人の流れを拡大する」と、留学生30万人計画が実施された、その後約20年でその目的を達成した。

現実は、約半数が日本語学校への留学であり、その中でも約半数の学生が出稼ぎの手段としての留学と見なければならないのであるが。

その最たるものが、2019年に問題化した東京福祉大学事件であった。

国は、その事件をきっかけにして出稼ぎの目的の留学にチエックを入れ始めた。その結果、ベトナム、ミャンマーなどの新興国からの日本語学校への留学生はほとんど許可されないほどとなった。

国は、その層を何とか特定技能の申請に誘導しつつあるようだが。

それにも増し、昨年来のコロナ禍である。

昨年1か年は、留学の過半を占める日本語学校にあっても新規入学制がほぼゼロに近い状態であった。

日本語学校は、おおむね1年3カ月から2年の就学期間である、そのため来年4月までに新規留学生を迎い入れなければ在学生がゼロになる日本語学校が生まれることであろう。

この状況で、我々は新たに留学生を迎い入れ、目的達成のための重要な戦力として育て上げなければならない。

その意味で、単に労働力だけではなく介護人材の国際的循環の基地としての送り出し国に介護施設などを開設、運営する中心人物を教育育成のための入り口としてこれを位置付けづけよう。

その意味で、この傾向は留学の意味合いが問われている。

 

4.送り出し国の経済発展のかかる課題

今から10年前の2011年の在留技能実習生は圧倒的に中国出身者であった、その数約11万人実習生総数の75%を占めていた。

その後、2016年には第2位のベトナムと入れ替わり、その人数も約8万人と減少した。

その後、2019年にはベトナム約19万人中国約8万人と完全に出身国の主流が変わったのであった。其れは当たり前のことであるが母国の経済発展にスライドしたのであった。

中国の経済発展は、毎年6パーセント以上の成長率を続け国民一人当たりのGDPも1997年780ドルであったものが、2018年には1万ドルを超えるほどの急成長を遂げたのであった。それも沿海部の北京、上海などの大都市などでは2万ドルを超えるに至ったのであった。

何も外国に出稼ぎを求める必要もなく、特に経済特区、経済技術特区にて飛躍的な発展を遂げた沿海部に就労先が次々と生まれたのであった。

それが、2015年前後の技能実習数の低減の理由であった。

ベトナムが、その地位を得たのは国策としての「労働輸出」の推進とベトナムの経済発展前夜の社会情勢が起因している。

確かに、2019年技能実習全体41万972人の53,2%、21万8,727人を占めるベトナムが圧倒的な数であるが、ベトナムの経済成長率は、コロナ禍が原因でほぼ全世界がマイナスをしめしている中プラス2,8%を予測されているほどである。当然、自国にての就労先も5~6年先には充足が始まるであろう。もはやハノイ、ホーチミンなどの大都会では労働者不足が始まりつつある。この様に一面では、海外への労働者の多出は自国の近代化促進の下支えになっている。遠からずしてベトナムも外国に働きに行く必要がなくなり自国に就労が主流になるであろう。

次に来る国はミャンマーであると言われている。

10年ほど前、本格的には数年前からの軍事政権から民営化され、国際的にその門戸を開かれると、日本では盛んに「アジア最後のフロンティア=ミャンマー」などといわれ始めたれた。確かに、海外投資がミャンマーに集中しそのGDP成長率も2010年代半ばからの平均は前年比6~8%を示しその国の変貌も急ピッチで進んでいる。この結果、他の新興諸国の常に従って遠からずして、今までの先例から見れば、その間10年弱であろうが、外国への出稼ぎの必要もなくなるであろう。

このように海外出稼ぎは自国産業の近代化によって減少していくのであるが、それにも加えて、出稼ぎ国から日本はその魅力をなくしつつある。

確かに、新興国に比べれば賃金水準は高いが他の受け入れ諸国と比べるとその魅力はなくしている。それは日本の賃金水準の伸び率がOECD諸国に比べて極めて低いのも起因している。このようなことから現在の日本への出稼ぎがそのままの力で続くとは想像できない。

これが今後を考えていくうえでの課題なのでしょう。

 

Ⅲ 今後どうするか

 

取り巻く課題を踏まえ今後の事業団の行き先を考えるには中長期の期間を必要とする。

長期的視座に立てばそれは「介護人材の国際的循環を実現する」との目的を述べるにとどめておこう。

我々は、5年かけて実現する世界を具体的に実現する方法を考えることにする。

 

1.中期的には

~介護人材の送り出し地域と迎い入れ地域の国際的地域連携を実現する~

 

課題1の技能実習にかかわる事業団の新たな役割は

 

「決まった時期、決まった数の、約束したレベルの人材」の輩出を送り出す機関と確約しその結果が連携の保証である。

一方、受け入れる会員実習実施機関は約束した期間までに約束したレベルまで実習生を教育することに義務を持つ。

それが実現すれば、介護事業所の悲願であるスタッフ採用の安定、それを前提としたスタッフレベルの向上が実現する、また実習生も、その後の生活の安定を得られ目的達成にまい進できることとなる。

これこそが、スタッフ不足に悩む日本の介護現場にとって悲願に近いことなのでもある、スタッフ不足の現況は、介護の質の低減にもなっているほどでもある。

両者の約束事の結果、送り出された母国にあっても、介護を施す人材の育成にもなる。

我々の6か年ほどの経験によると、このようなビジネス社会では当たり前の、あるいは原則に近い基準が守られていない現状が解った、それは現況のように送り側、受け入れる側の一方通行の関係であれば、まだ許せる範囲であるが、我々のように相互交流を前提とした循環を目的にした集団では守ることが、維持につながることなのだ。

まずは、その原則を守ることから改めて開始しよう。その役割の実行が事業団であるし、盟約関係を結べる送り出し機関、地域の選定にかかっている。

この循環を目指す5か年とする。

 

第2の課題である特定技能制度問題

 

設立当初言っていたことと違い、今の運用具合は、特定技能と技能実習とはあまり変わらはない。

そうであるために、時の変化と会員事業所の運営にとって有利な方を選べばよいことに過ぎない。

何せ我々は、実習生などを扱って利益を得る産業に従事しているのではないので。

それは。当初、日本政府は技能実習制度の使いづらさを改善するための新たな制度としたのであるが、送り出し国の抵抗にあい、結果的にあまり差異がない制度として運用が始まるようであるからだ。

どちらでも、会員個別の事情により選択をすればよい、程度にしておこう。

そのため、利便性として、独自に監理団体、あるいは登録機関を用意することも視野に入れておこう。

しかし、それは大した問題ではない、単なる利便性の良し悪しが判断基準となるに過ぎないから。

 

留学生問題

 

コロナ禍において結果的に出稼ぎ目的の留学が淘汰されるようだ。

介護人材の国際的循環の達成のためには、送り出し国に地域介護の仕組みとその実践基地となる介護施設の必要がある。

それを実現する人材の育成も必要である、現在実施中の介護スタッフ教育と違った育成を必要とする、その目的達成のために先に記したように、留学から始まるコースつくりに着手しよう。

 

Ⅳ 最後に

 

 現在は、不足する介護人材の補充のために発展途上国の若者に狙いを定めているが、途上国側も「労働輸出」を重要な産業と位置付け国を挙げて推奨しているが、それは国の近代化のための一過程に過ぎない。

新興国は、一方で外国資本を導入するなどして産業の育成をして飛躍的な発展を目指している。その結果の実現は出稼ぎの必要をなくしていく。

 現在の中国がその典型に近い。

 現在、日本は労働力不足対策として技能実習制度などの推進を図っているが、それは結果的に制度の消滅を目指していくことに他ならない。

 一方、出稼ぎの必要がなくなる国の経済発展は農村型地域社会から都市型への変化をもたらす。

それまで家庭介護から地域介護でこなす介護に変化させることを示している。

この時代変化の流れにあっては、既存の送り出し機関監理団体のラインは流れとともに役割の終了が宿命となっている。

それ以前に、我々は技能実習生度へのかかわりを変化させなければならないであろう。

地域連携を目指そう

 日本の介護特性は介護の地域化、あるいは介護を家庭から地域にシフトしたことにある。

介護技能実習生の実習の最終的成果の実現のためにも、受け入れる実習実施機関は、地域全体で実習生を受け入れる仕組みを目指す必要がある、また、送り出す側も意識して地域介護を目指す必要がある、そのためにも地域にて送り出し、そして帰国後の受け入れ企画する必要がある。

 今必要なのは、持続可能な仕組みの完成である。手始めに実験地に我々の地域ブロックとミャンマー国ヤンゴン、タケタ地区を想定する(その詳細は別途記載)。

受け入れ側は、地域的に広がりを持たせるために現況の送り出し受け入れにかかる費用では新しく参入してくる事業所にとっては高いハードルとなっていることも事実である。

実習生受け入れにかかる費用の低減化を実現して、会員事業所の近隣事業所などが自然に参加しやすくすることから開始する。

 また、外国人との共生を図り風通しの良い地域を作るため、住民組織、関連諸機関、関連諸団体、行政機関などと協力のもとに受け入れ地区の地域的広がりを求め、地域コンソーシアムとでもいうべき実際を作っていこう。

同様なことを、送り出し地域にも求めることとする、その点を強く主張する5か年でありたい。

我々はあくまで介護人材の国際的好循環を目指す集団である。

 

以上